彩は、相変わらず普段と同じ生活を送っていた。
そしてまた、ユリも彩の部屋へ通い何一つ変わらない
生活であった。
しかし、二人とも帰宅プログラムに申し込み、許可証が
届いていた為か、徐々にそんな生活も変わりつつある。
今までは、特別やることもなかったものの、少しずつ
部屋を整理したりはしていたのであった。
そして、朝食を二人で食べると、二人揃ってエントランスセンターへ
向かっていた。帰宅前の最後の歯科検診が入っていたのである。
歯の状態は、彩は虫歯のない真っ白い天然歯である。
虫歯から守られている歯は、全くキレイなままの状態を
保っている。
そして、ユリもまた 治療が終わり大きなブリッジが入れられて
いたものの、治療後の状態も変わらず、前歯はセラミックの歯が
そして奥歯はゴールドで作られた金属歯が輝いていた。
大きな治療を行っていたものの、普段の食生活に支障はなく、
しっかりと作られている人工歯は、なんでも食べることが出来るわ。
そして大きな口を開けて笑うと、奥歯の金歯が見えるものの、
普段の生活では、真っ白い歯が揃っており、見た目も美しい。
そんな二人であったものの、帰宅前に最後のチェックが
行われることになっていたのである。
診療室へ到着すると、治療室では、患者が検診を受けている
ようであった。しばらく待たされ、彩が診療室へ呼ばれていた。
そして、先生は彩の口の中を検診してゆく。
まばゆいばかりの真っ白い歯で埋め尽くされ、見たところ、
全く問題は無かったのである。そしてレントゲン検診を受け
先生は写真を見ながら説明していたものの、歯冠の部分から
根の奥まで、全く問題はない健康そのものの歯であった。
先生は、これからも歯を大切にして下さいね。と一言言うと、
歯の清掃を行い検診はそのまま終了していた。
そして、ユリが呼ばれる。治療室へ入ると、ユリの口腔内を
先生が丹念に見てゆく。すでにほとんどの歯に大きな治療を
受けているため、先生も慎重に検診を行っていた。
見た目には問題がないものの、ほとんどの歯を被せられている
ユリの口腔内では、クラウンの内側で問題が起こっていることも
珍しくない。そんなユリもまた、レントゲン検診を受ける。
先生は、根の状態も問題ありません。
ただ、歯茎の後退が少し出てきています。今のところ虫歯に
なってはいませんが、これ以上歯茎が痩せてしまうと、
歯の根の部分が露出してしまい、被せてある冠との隙間から
虫歯になってしまうことが多いです。歯茎もよくブラッシングを
して、これ以上歯茎が痩せることのないよう気をつけてください。
と注意を受けていた。所々ではあったものの、わずかに
クラウンと歯茎の間に隙間が開いている部分があったのである。
そしてユリもまた、ほとんどの歯の神経を抜かれている為、
虫歯になってしまうと、クラウンの内側で虫歯が進行しても
自覚症状がなく、手遅れになってしまうことが多いらしいわ。
もし、そんな虫歯になってしまうと最悪、ブリッジの土台に
なっている歯まで抜歯され、ブリッジに出来なくなってしまうことも
少なくないらしい。そんなユリの歯の状態ではあったものの、
とりあえずは、虫歯にもなってなく、人工歯のかみ合わせの
状態も問題はなかった。
そして衛生士さんは、ユリの歯の清掃を行っていた。
ブリッジの多い口腔内では、仕方がないものの、
彩の天然歯に比べ、ユリのブリッジは、歯垢の付着等
汚れが目立っていた。ブリッジになっている人工歯は、
虫歯にはならないものの、支えている根は、とても
虫歯に弱い状態である。
ブラッシングも、ブリッジの汚れがたまりやすい支台歯と
ダミーの歯の間もよく磨いてくださいね。と注意をされていた。
ユリは結構丁寧に磨いていたつもりであったが、しっかりと
磨けている所と磨けていない所がムラがあったらしいわ。
気をつけなくちゃ。そんな事を思いながら治療室を出ると、
彩が外で待っていた。
二人はそのまま、エントランスセンター内のレストランで
昼食をとる。たまには外食もいいわね。
State Sでは、虫歯になった居住者が出ていった為、
現在では数人を残すだけになり、閑散とした状態であった。
そんな二人は、多くの人が訪れているエントランスセンター内
での食事は少し楽しく活気を感じていたのである。
そしてユリは食事が終わると、化粧室へ入り歯を磨いていた。
ブリッジは天然歯に比べ、数本の歯が繋がっているためか、
食べ物のカスが詰まりやすい。丁寧に磨き上げると、
鏡で歯をよくチェックしていた。
磨き上げられた奥歯の金冠は、キラキラと輝いている。
見た目もいかにも人工歯であることを象徴するような歯で
あったものの、しっかりと作られている奥歯は、何を食べても
快適であった。自分の歯質は根の部分を残し失われていた
ユリの奥歯では、金属の心棒とクラウンで支えられている。
無機質な歯ではあるものの、大切な歯でもあった。
入れ歯にならないように気をつけなくちゃ。そう思いながら
ユリは、席へ戻っていった。二人は少しおしゃべりをしてから
席を立ちレストランを後にする。
午後は少しゆっくりとしましょう。という彩の提案に
二人は、State Sの彩の部屋へ向かっていった。