4人は都心から程近いウォーターフロントにある
眺めの良いホテルの一室にいた。
いままでしばらくの間、島という閉ざされた場所で
生活をしていたためか、少し勝手が違うわ。
なんとなく懐かしいような、そんな気がしていたのである。
近くのショッピングモールをぶらぶらとしてきた4人は、
周りの人の歯が、キレイな事に気がついていたのである。
同年代の若い女性でも、前歯に差し歯を入れている
ような人は、それほど多くないものの、珍しくも無いわ。
でも、ほとんどの歯が差し歯だったり、義歯だったり
するような人は、いない。
島での暮らしでは、そんな人も、虫歯で歯がボロボロに
なっているような人もそれほど珍しくは無かったわ。
彩を除いた3人は自分たちの歯の状態の深刻さを
心配していたのである。かなりしっかりと作られている
技巧物は、普段の生活に問題はないわ。でも、
ほとんどの歯を、ブリッジや義歯で埋め尽くされている
状態は、やはり深刻であった。
なれちゃえば大丈夫かな? ユリはふとそんなことを
考えていたのである。
4人は夕暮れの都心を眺めながら、夕食をとり、
部屋で久しぶりの都心の夜景を見ながらおしゃべりをしていた。
島に残っている人は、変わらない生活をしているのかしら?
そんなことまでふと考えてしまう。
いずれにしても、明日は帰宅するのである。
久しぶりの家族はさぞかしびっくりするのね。
そう思いながら、いつの間にか、眠ってしまっていた。
そして、翌朝の早朝、最初に目を覚ましたのはユリであった。
なんか寒いわ。昨日はそんなに気がつかなかったけれど、
今までいた島に比べ、かなり寒い。特に、朝起きると、
びっくりするくらい寒く感じ、暖房を少し強くしていたユリであった。
次々と、起きてきていつの間にか全員眠い目をこすりながらも、
起きていていた。
少し、ボ~っとして眠気を覚ましてから、朝食に出かける。
ホテル内のレストランへ向かってエレベーターで降りてゆく。
すでに、それなりに、レストランは人が入っているわ。
ビュッフェ形式のレストランでは、適当にお皿に朝食を
用意すると、のんびりと食べ始めていた。
そんな時、ふと詩織と美香は感じていた。
フランスパンって義歯で噛むのは大変なんだわ。
噛み切る事は諦めていたものの、小さく切って、
口の中へ入れる。よく噛んではいたものの、なかなか
噛めないのである。義歯には苦手なメニューなのね。
大きい治療がしてあるものの、固定式のブリッジを入れてある
ユリや、治療をしていない彩は、普通に食べているわ。
そして、朝食後、ホテル前の広場をプラプラと散策する。
気持ちよい朝の空気に包まれ、4人はふと帰ってきた
実感にもまた、包まれていたのであった。
海風にあたり、潮風を感じると、再び部屋へ戻ってきた。
とりあえずやることは、 やはり歯磨きであった。
詩織と美香は、義歯である。気をつけて食べていても、
入れ歯の間には、無数の食片が挟まっているわ。
丁寧に磨ききれいにすると、義歯を口腔内へ入れ、
パチッとはめてゆく。
下顎の前歯は、内冠の上から入れ歯をすっぽりと
被せるのである。ぎゅっと押し込むとしっかりと
固定されているわ。とりあえずグラグラするのような
事はなかったのである。
そして、ユリと彩も歯を磨いていた。
そして、再び、おしゃべりが始まっていた。
帰宅するときって、普通に ただいまぁ~って帰ればいいの?
さぞかし心配をしていたことであろう。そんな娘がいきなり
帰宅したら、びっくりするのは当然だわ。
そんなことを考えながら、話していたものの、
そろそろチェックアウトしようよ。彩が言い始めていた。
帰宅への心配はあったものの、ここにずっといるわけにも
いかず、とりあえず出ようか?そういうと4人はフロントへ
向かっていた。午前10時を少し回ったフロントは、そんなに
混雑はしていないわ。それでも数人の人がチェックアウトを
していたのである。
そして、チェックアウトをすると、すでに宿泊代は支払ってある
と言われ、昨日予約したときに、払ってくれたのかしら?
4人は知らなかったものの、予約時にすでに支払いの
手続きまでされていたらしい。
そして無事にチェックアウトすると、4人は再び都心まで
電車で戻ってきていた。ここからは、自宅へそれぞれ
帰るのである。
少しの不安を抱えながらも、4人はそれぞれ自宅へと
向かっていたのであった。